MARU MARU

舞台装置

舞台の登場人物を「まる」に演じさせたら、を考えた。

登場人物は男と女、中央に配置した2色のまる。
ストーリーは音声で進み、まるに位置の変化や動きを与えず、
喜怒哀楽を角度で表現した能の面のしかけを基に、
感情の変化をまるの角度・濃度のみで伝える試みをした。
展示ではストーリーが書かれた紙とヘッドフォンがあり、
その世界にに没入して観れるようにした。

Art Direction, Design
郡司龍彦
Tecnical Direction
小岩原直志
Special Thanks:
「イヅツ」
脚本=屋代秀樹 (nihonnorazio)
女=しまおみほ (nihonnorazio)
男=林千亜季
音声=the Lico

イヅツ(伊勢物語より)

屋代秀樹

登場人物:男 女

かぜふけば おきつしらなみたつたやま よわにやきみが ひとりこゆらん

ただいま
おかえり ごはんは?
あるの?
あるよ
じゃあ
じゃあ?
たべる
めずらしい たべてこなかったの?
うん
ちょっとまっててね
いつもよういしてるの?
なに?
ごはん
してるよ
いつもたべてきてるのに
もったいない?
そういうことでもないけど
たべなかったらわたしのあしたのおひるごはん
そう
そうだよ ちょっとまっててね
やっぱりよそうかな
ごはん? わたしのおひるがなくなっちゃうから?
それはきにしていないのだけど
たべてないんでしょ
ほんとうはしょくよくがないんだ
そう じゃあ おふろにはいってもうねる?
うん
そっか
きょうは 月がきれいだね
そう
月なんてゆっくりみたのはひさしぶりだな
そう
こどものころ いえのちかくに井戸があったよね
あぶないからちかよるなっていわれてたけど よくふたりでのぞきこんでた
月がうつってた
うん
おわんのなかにあるみたいでおもしろかった
うん
あのときいらいかな 月をちゃんとみたの
もうなんじゅうねんもまえのことね
そんなになるのか
そんなになるのね
つまらなくはないかい
なにが?
こどもでもいたらよかったけど
しょうのないことよ
さびしくはないかい
どうして?
ねこでもかおうか
どうぶつはにがて
ふあんではないのかい
なんで?
ぼくがかえらないのを
いけない おふろをわかすのわすれていたわ
きみはずっとかわらない
かみはずいぶんとほそくなったのよ
ぼくはかわってしまった
かみがずいぶんとうすくなったね
きみはいつもそうやってじょうだんばかりだね
じょうだんじゃないわよ
ぼくはふあんなんだ
そう
きみがかわらないでいるのが
そう
きょう ぼくはほんとうはでかけていなかったんだ
そう
あのいえにはきょうはよっていないんだ
そう
ぼくはずっとにわにかくれていたよ
ばかなまねね
しりたかったんだ ぼくのいないあいだ きみがなにをしているのか
おもしろいひと
きみはよるになって えんがわにでてずっと月をみていたね
うん
それで とてもきれいにお化粧をしていた
うん
いつもそうしているのかい
おねがいもしているわ
おねがい?
お月さまにおねがいをしているの
どんなおねがい?
あなたが くらくてこわい山をこえるときでも お月さまがずっとあなたをみまもってくれますように
そう
それから 井戸の月をいっしょにみつめていたあのころのように はなれていてもおなじ月をみていますように
そう
こんやは あなたもそのにわで おなじ月をみていたのね
うん
やっとおねがいがかなったわ
ほんとうは ろくに月はみていないんだ
そうなの
きみにずっと みとれていたよ
そう かってなひとね
うん かってだな
ずっといっしょよ
ずっといっしょだ